
photo: Ken Yanagisawa
全米で最も長い歴史を誇る名門市民オケBoston Civic Symphonyの副指揮者を務める柳澤謙の指揮者への道は、決して平坦なものではなかった。
ジュリアード・プレカレッジ在学中に指揮の授業を受けて以来、指揮者への夢は常に謙の心の中にあった。大学進学の際、音大に行くか普通の大学に行くかで悩み、音大と普通の大学の両方を受験。受けたアイビーリーグの大学全てに合格。イェール大への進学を1年遅らせ、ボストンの名門音大ニューイングランド音楽院で1年間、オーボエをボストン交響楽団の首席オーボエ、ジョン・フェリーロ氏に師事。その後、入学したイェール大では脳科学者を目指しての勉強をしつつオーボエ奏者、指揮者として学内のありとあらゆる楽団で活躍。イェール交響楽団では首席オーボエ、副指揮者としてだけでなくプレジデントとしてもオーケストラをまとめ、カーネギーホールでの50周年記念コンサートを成功させる。
大学2年の時にギリシャの難民キャンプを慰問し、楽器に触れる子供達の表情から音楽の持つ「癒し」の力を再認識。指揮者を目指すと決意して専攻を音楽に変更。夏休みは指揮者として国内外のサマーフェスティバルに参加し、ヨルマ・パヌラ氏、ジェラード・シュワルツ氏らに師事。オーボエ奏者としてはイェール大の仲間とともに、ブラジル、ギリシャ、イタリア、ガーナでの演奏とボランティア活動に従事。大学3年と卒業時には大学内の芸術活動に最も貢献した生徒として表彰される。
イェール大卒業後はニューヨーク・フィルハーモニックの事務局で働きながらマンハッタン音楽院指揮科修士課程に進学し、仕事と学業を両立。入学前の夏にはパシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌に指揮フェローとして招待され、準・メルクル氏から指導を受ける。マンハッタン音楽院ではジョージ・マナハン、ベルナール・ラバディ、ペリー・ソーの各氏に師事。2018年にはルーマニアのバカウ・ミハイル・ジョラ・フィルハーモニー管弦楽団でヨーロッパデビュー。マンハッタン音楽院大学院指揮科修士課程を首席卒業。在学中からレナード・スラットキン氏の指導を受け、卒業前にはデトロイトシンフォニーの指揮フェローに選出される。現在は、ボストン大学芸術学部指揮科博士課程で全額奨学金の特待生として学ぶ傍ら、ベルリン・オペラ・アカデミーやロードアイランド交響楽団でも副指揮者を務める。
日本との関係も深く、京都市立芸術大学では研究生として下野竜也氏に師事。2023年2月には、関西二期会のオペラ「魔笛」で日本センチュリー交響楽団を率いての日本デビューが決まっている。指揮者以外にカメラマンとしての顔も持ち、今までに彼の写真はタイム、ニューヨークタイムズ、ハフィントン・ポスト、ボストン・グローブなどに多数掲載されている。(2023年1月現在)